なかのひと イベント スペシャル 全国
ヒューマン・ライブラリー 中編

あるレズビアンカップルの半生、カミングアウトとなった結婚式から家族の反応

人を本に見立て、その人生を読むバーチャル図書館

健茶(けん・ちゃ-)

こんにちは!ジモタツ神戸特派員、健茶です。

前回に引き続き、社内で実施した「ヒューマン・ライブラリー」企画の中編です。

ヒューマン・ライブラリーとは、生きた人を本に見立て、貸し出すバーチャル図書館の意味で、さまざまなマイノリティ当事者をゲストに招き、自身の体験や想いを語っていただく企画のことです。
京都でマイノリティ当事者としてゲスト側で「本」として貸し出されたのをきっかけに、社内でもオンラインで開催しました。
今回は、この社内イベントの模様を特別に公開。前編・中編・後編の中編をお届けします。

今回、ヒューマン・ライブラリーの”図書”としてお招きしたのは、NPO法人でLGBTQ ALLAYの支援活動をしている、レズビアンカップルの井上ひとみさん(以後、ひと)と瓜本淳子さん(以後、じゅん)。

お二人はベルシステム24も参加したイベント、大阪レインボーフェスタのステージ上で、2015年に結婚式も挙げられました。2018年には大阪市パートナーシップ宣誓証明制度を利用した第1号として、複数のメディア取材を受け、その後も学校での講演などさまざまな活動をされています。

前編では、カミングアウト前までの人生を語っていただきました。中編は大々的なカミングアウトとなった結婚式や、家族の反応についてお届けします。

井上ひとみ

井上ひとみ

1979年、京都府生まれ。NPO法人カラフルブランケッツ理事長。
大阪市の動物病院副院長。パートナーとゴールデンレトリバー、チワワ3匹、猫2匹と暮らす。「家賃を払うよりもカタチで残るから」と数年前に中古の一軒家を購入。休日は、手先の器用さを活かして自宅のセルフリフォームDIYに励んでいる。

瓜本 淳子

瓜本 淳子

1979年、大阪府生まれ。NPO法人カラフルブランケッツ副理事長。
21歳のときに男性と結婚し、退職。その後、離婚して実家に戻り、SNSを通じてレズビアンのコミュニティを知った。足を踏み入れたところ、自身がレズビアンであると確信。現在、獣医師である同い年の女性パートナーと、動物病院で働いている。また、心理面での手助けができるようになればと通信制の大学にて心理学を学んでいる。

前編目次

前編はこちら

  • レズビアンだと自認した学生時代、同級生に初めて恋心を抱く
  • レズビアンであることを隠し続けて働いた勤務医時代

中編目次

  • 大々的にカミングアウト!公の場で結婚式を挙げることを決意
  • ご家族に結婚のご挨拶、その時、母の反応は?

後編目次

後編はこちら

  • 自治体のパートナーシップ制度、現制度の限界とは
  • 質問!「ゲイよりもレズビアンの方がカミングアウトしづらい?」「企業のLGBTQ ALLY活動の落とし穴って?」

大々的にカミングアウト!公の場で結婚式を挙げることを決意

結婚式を挙げるにあたり、カミングアウトすることを決意
ひと

で、そうやってずっと生きてきたんですけど、ある時に、関西レインボーフェスタ(以後、フェスタ)っていう、性の多様性をお祝いするお祭りに、じゅんと付き合ってから行ったんです。そしたらそこで、ゲイカップルさんが、ステージで結婚式を挙げておられて。

全然知らない人、フェスタに参加してはる、見知らぬ人たちからも、すごい温かい拍手やお祝いの言葉を貰ってはって、同性愛者でもこういう風に祝福してもらえるんだ、っていうのがわかって、すごい温かい気持ちになったんです。

今まで異性愛者の友人の結婚式には何回も参加していて、おめでとうって言うんですけど、なんとなく心の中で、自分にもパートナーいるけど、こんな風に人から祝福してもらうことは、この先一生ないやろうし、ずっと隠していかなければいけないんだなと思うと、ちょっと暗い気持ちにもなってたんですね。

そんな思いを抱きながら生きてきたのに、フェスタでゲイカップルさんの結婚式を見て、こんな世界もあるんだ、こんな暖かな世界もあるんだって、ちょっと希望を持てたんです。

次の年、レズビアンカップルさんの結婚式をイベントでやりたいけど、誰かやってくれる人いないかな?みたいな話が、ウチらに来たんですね。私たちはずっと隠して生きてきたんで、はじめは驚きつつも嬉しくて、でも「どうしよう」って、すごい葛藤もあったんです。
でも前年のゲイカップルさんの式を見て、すごい良かったっていうのもありますし、同性愛者が芸能人や、セクシュアルマイノリティの人が集まるバーにしかいない人ではなくて、ウチらみたいな、そこら辺に居てるような、「一般の人の中にも同性愛者は居るんだよ」ってことを知ってもらうってことは、すごい大きな意義があることじゃないかって思って、やっぱり結婚式挙げたいなって思ったんです。

その時は友人と動物病院を開業してたんで、病院に迷惑がかからないかっていうのが心配でしたね。扇町公園っていう大きい公園で結婚式を挙げるので、セクシュアルマイノリティに理解のない人、偏見を持ってる人も見はるかもしれない、どこかから情報を聞くかもしれない、動物病院に通ってくださっている飼い主さんにも伝わったら、「あそこの動物病院の獣医、レズらしいで!」「気持ち悪いし、怖いから通うのやめよう」みたいな話になって、飼い主さんが来てくれなくなったらどうしようって、やっぱり心配になったんです。

それを院長に伝えたら、「うちにはそんなことを言う飼い主さんには来てもらわなくていいから、結婚式やったらいいよ」っていう風に、背中を押してもらえて。

それで晴れて、結婚式を挙げることにして、今まで本当に数人の人にしか、自分の性的指向を言ってなかったんですけど、結婚式をやるにあたって、周りから変な風に「井上さん、なんか女の子と結婚式挙げたらしいけど、どういうことやろ?」みたいな変な伝わり方したら嫌なので、連絡のつく人すべてに、「今度、女の子と結婚式挙げることになりました!」ってこっちから言ったんです。高校の同級生にも言いましたし、前の職場の同僚にも言いましたし、大学の先輩とか先生にも、連絡がつく人全部に言ったんですよ。

FaceBookとかメール、電話、直接会ってとか。で、言ったら、みんながみんな、ほぼ、もう9割9分くらい、「良かったね~」って、「ひとみさんは男性と結婚してる姿が、昔から想像できなかったけど、そういうことやったんか、めちゃめちゃしっくり来るよ~」とか「なんでもっと早く言ってくれへんかったん?」って、ちょっとね、怒り気味でとか、まぁ冗談ですけどね(笑)言ってくれはる人もいて、すごいうれしかったです。

私がそうやって、うまいことカミングアウトできたのは、本当に周りの環境が良かった、運が良かったっていうのもありますね。大きな会社とかに勤めてはったら、全員に、「今度結婚式挙げようと思うんやけど、どうやろ?会社に迷惑かからないかな?」って聞いた時にね、「OKOK!やったらいいよ!」「やりやりー!」って言ってくれはる人ばっかりじゃないと、思うんですよね。

個人でやってる小さな動物病院に勤めてたっていうのも良かったですし、本当にたまたま、友人にも理解のある人ばっかりやったっていうのが大きいのかなって。

なので、すべてのセクシュアルマイノリティの人がカミングアウトしてうまくいくとは限らない。私自身は、カミングアウトしてすごく気持ちが楽になったし、もう人に隠さなくてもいい、後ろめたいことしてるんじゃないよって、すごく楽になったから、隠しててシンドイ思いをしてはる人も、言えたらいいなって思うんですけど、手放しに「カミングアウトしたほうがいいよ!」とは現状言えないですね。

健茶

なるほど。職場でのカミングアウトについては、以前社内で開催した講演会で、ゲストの方が、「職場での心理的安全性」っていう言葉を使われていて、自分の職場で自分自身のことを語っても、けっして否定はされない、受け入れてくれる職場なんだ、と感じられるのと、この職場では絶対に知られてはならない秘密なんだと感じる状況で働くのとでは、生産性、どのように能力を発揮するかっていう部分に関してもけっこうな違いが出てくるんじゃないのかな、と思いますよね。

僕はこの会社入った時からカミングアウトしてますし、嫌なことは特になかったんですけど、いろんな会社さんとお付き合いをしているなかで、社風ってみんな違って、なかには「ここでは絶対に言ってはならないな」っていう会社さんも、今でもやっぱりたくさんありますので、言われてたように誰もがカミングアウトをして、どこででも受け入れられるっていう状況では、まだないんだろうなっていうのはいろんな所で感じますよね。

ご家族に結婚のご挨拶、その時、母の反応は?

拍子抜けするくらいスムーズにカミングアウトできたというじゅんさん
健茶

カミングアウトは概ね好意的な反応が多かったということなんですが、友人とご家族とでは反応、重みがだいぶ違うのではないかなと想像するんですが、ご家族の反応はいかがでしたでしょうか?

ひと

家族へのカミングアウトした方で、「同性と付き合うなんて許せない」とか「別れないんだったら親子の縁を切る」って言われた人もいますし、それが原因でね、自ら命を絶った人とかもね・・・、やっぱりいたんですよ。友達やったら、最悪、縁を切って離れればよいだけですけど、親子の縁ってやっぱりそれとは違うもので。

なのでそこはすごい心配やったんですけど、私の場合、親に言ったのは、結婚式の直前だったんですね。
もちろん結婚式する前に、ちゃんと挨拶に行こうと思ってたんですけど、それより先に、Twitterで、私たちがフェスタで結婚式を挙げることが、間接的に母に伝わってしまったんですね。

健茶

お母さんTwitterを見てるんですね。

ひと

そうなんです。で、「あんた結婚式するんか?!レズビアンやったんか?!」みたいな連絡が来ててね。私は高三の時に大好きやった女の子の話を、母親にすごい言うてて「今日はあの子と遊びに行くねん!」ってすごい楽しそうに話してたと思いますし、当時レズビアンをカミングアウトした人の本、まさにタイトルが『Coming OUT!』っていう本をね。

健茶

笹野みちるさんのやつですね、僕も読みました。

ひと

そうです、そうです。あの本を置いてたんで、きっとバレるやろうなって思ってたんですけど、それでも自分から直接、女の子好きやなんて、親に言うのは恥ずかしいじゃないですか。恋愛の話をすること自体、恥ずかしいんですけど。

なので、なんとなく知ってくれればいいなと思いながら本を置いてたんで、母親は感づいてるかなと思ってたんですけど、Twitterで知られた時は、「あんたレズビアンやったんか」って言われて。そんなに驚くのもおかしいなとは思ったんですけど、「そう、瓜本さんと、一生一緒に暮らしていこうと思うんです」「結婚式を挙げて、誓いを立てたいと思います」って言ったら、「良かった、一生一緒に居てくれる人がいてくれて安心や」って言ってくれて、もう全然スムーズに受け入れてくれたんです

残念なのが、その時すでに父は亡くなっていたんですね。だから父がそれを聞いたらどう言ったかな~、とは思います。
反対したのか、それとも安心してくれたのか、今となっては分からないんですけど。母にはスムーズに受け入れてもらえたけれど、実家の地域はけっこう保守的な考えの人も多くて、親戚には言わない方がいいと母から言われまして。なにかで回って伝わるなら伝わるでもいいけど、あえて報告しには行かなくてもいいかなと思って、言ってはないです。

健茶

じゅんさんはどうでした?

じゅん

そうですね、私の場合もスムーズにいけました。結婚式の前日に、二人で急きょ挨拶に行こうとなって・・・。

ひと

そう、本当は私が、「娘さんをください」じゃないですけど、「瓜本さんと、結婚式させていただきます」って挨拶すべきかな~と思ったんですが、結局緊張して全然言えなかったです。(笑)

じゅん

でも私が「明日結婚式を挙げることになったんです」って言ったら、お母さんが、「そしたら私も出なあかんかな、準備せなあかんかな」って。式が終わったあとも「結婚式の写真、あるんやったら欲しい」って言われて。ひと(ひとみさん)の場合は「親戚に言ったらあかんな~」ってなってましたけど、うちは写真渡したら、お母さん自身が親戚に、写真をばらまくと。(笑)

ひと

すごい喜んでくれてはったね。本当に異性カップルの結婚と変わらない感じで、こっちが拍子抜けするぐらい。同性同士やけど本当に分かってくださってるのかな?って心配になるぐらいスムーズにいきましたね。

健茶

僕も家族にはカミングアウトをしていて、概ね、「やっぱり!」みたいな反応だったんですけど。父親だけが、全面的に受け入れてる感じではなくて、「それがお前の幸せならいいけど・・・」っていう、たぶん世代的にも受け入れがたい「変な人たち」っていう認識しか持ってないんだろうな~っていうのと、ただそういう価値観とか認識で何十年も生きてて、息子がそうしたいなら「まぁ、いいけど」っていう、それがたぶん父親なりの精一杯の歩み寄りなのかな、ていう。


いかがでしたか?今回はカミングアウトとなった結婚式やご家族の反応について、語っていただきました。
今日の感想をぜひご友人、ご家族の方とも共有していただき、「マイノリティ当事者の実態を知ってる人」が増えることが、マイノリティ当事者の方の「生きやすさ」に繋がっていくと信じています。

後編では、お二人が感じた制度の限界、その他に質問させていただいた内容についてお届けします!
ぜひこちらもご覧ください。

後編目次

後編はこちら

  • 自治体のパートナーシップ制度、現制度の限界とは
  • 質問!「ゲイよりもレズビアンの方がカミングアウトしづらい?」「企業のLGBTQ ALLY活動の落とし穴って?」

NPO法人 カラフルブランケッツ公式webサイト
http://www.colorfulblankets.com/

大阪レインボーフェスタ公式webサイト
https://www.rainbowfesta.org/

ベルシステム24、「性の多様性」を祝福し、分かち合う場をつくるイベント「レインボーフェスタ!2021」に参加
https://www.bell24.co.jp/ja/news/bell24/20211101/index.html

こちらもおすすめ