あるレズビアンカップルの半生、LTBTQ ALLYのこれから
人を本に見立て、その人生を読むバーチャル図書館
こんにちは!ジモタツ神戸特派員、健茶です。
引き続き、社内で実施した「ヒューマン・ライブラリー」企画の後編です。
ヒューマン・ライブラリーとは、生きた人を本に見立て、貸し出すバーチャル図書館の意味で、さまざまなマイノリティ当事者をゲストに招き、自身の体験や想いを語っていただく企画のことです。
京都でマイノリティ当事者としてゲスト側で「本」として貸し出されたのをきっかけに、社内でもオンラインで開催しました。
今回は、この社内イベントの模様を特別に公開。前編・中編・後編の後編をお届けします。
今回、ヒューマン・ライブラリーの”図書”としてお招きしたのは、NPO法人でLGBTQ ALLAYの支援活動をしている、レズビアンカップルの井上ひとみさん(以後、ひと)と瓜本淳子さん(以後、じゅん)。
お二人はベルシステム24も参加したイベント、大阪レインボーフェスタのステージ上で、2015年に結婚式も挙げられました。2018年には大阪市パートナーシップ宣誓証明制度を利用した第1号として、複数のメディア取材を受け、その後も学校での講演などさまざまな活動をされています。
前編・中編では、カミングアウトまでの人生からご家族の反応について語っていただきました。最後の後編は、現在のLGBTQを取り巻く環境についてお聞きしました。
後編目次
- 自治体のパートナーシップ制度、現制度の限界とは
- 質問!「ゲイよりもレズビアンの方がカミングアウトしづらい?」「企業のLGBTQ ALLY活動の落とし穴って?」
自治体のパートナーシップ制度、現制度の限界とは
2015年渋谷区で初めて、パートナーシップ制度始まった時に、ニュースで見て、なんてすごい、区が二人の関係を認めてくれる制度があるんだ、大阪市でもやってくれないかな~ってずっと待ち望んでたんですけど、なかなか始まらないところ、2018年にやっとやってくれはって、「やったー!即、取らないと」って思ったんですね。
取らないとって思ったのは二人の関係を証明してくれるものが今までなにもなかったんです。結婚式を挙げたので、それを知ってる人は、二人はパートナーだってわかってくれてますけど、そうじゃない人にはなにも、二人の関係を証明できるものがなかったので、それが欲しかったっていうのと、あとは医療のことですね。
二人は法律上まったく赤の他人なので、もし一人が、例えば急な事故とかで、救急車でじゅんが運ばれたら、私には連絡こないじゃないですか。どこでどうなってるのか分からなかったりとか、手術しないといけないようなことになったときに、同意書にサインができないとか、そういうことがやっぱり心配だったので、パートナーシップ証明書を貰えれば、使えるところが公立病院とLGBTQに理解のある私立病院に限られてますけど、そこだけでも二人の関係がちゃんと証明できたらいいなと思って。私、去年に麻酔をかけないといけない処置を私立の病院でやったんですけど、そこで同意書を書くときに、家族の緊急連絡先を書くようにって言われたんですね。
その時にじゅんに付き添ってもらってたんで、「同性パートナーがいるんですけど、この子の名前書いていいですか?」って言った「えっ?いや、ご家族の方でお願いします」って言われて。
「今だっ!」と思って、証明書出して、ここに大阪市、大阪府が家族として認めてくれる制度があって、こういうカードがあるんです、って見せたんです。
その人はそんな制度の存在は知らなかったみたいで、「ちょっと待ってください」って後ろに行かはったので、上の人に相談してきはったんでしょうね。そしたら「今回は、特例で、同性パートナーで書いていただくのは結構ですけども、これ以上大きな手術の場合は、同性パートナーの方ではなくご家族の方でお願いします。」って言われちゃったんで、ここにパートナーシップ制度の限界があるんだな、と思いましたね。制度を作ってもらったのは本当にすごく嬉しいんですけど、まだまだ不十分だな~って実感しましたね。
実際一緒に暮らしてて、本人たちは今一番身近な人だと感じているけれども、法律とかルール、決まりのなかではそれを認めてくれるもの、養子縁組とかやり方はあるにしても、二人がパートナーであると認めてくれるものが充分ではないというのが現状ですかね。よければあとで証明書ちょっと見せてください!(笑)
質問!「ゲイよりもレズビアンの方がカミングアウトし辛い?」「企業のLGBTQ ALLY活動の落とし穴って?」
せっかくなので、今参加している社員の皆さんからの質問にもぜひお答えいただきたいと思います。
最初に私からの質問ですが、ベルシステム24は3万人近くの従業員が働いているので、社員には私も含めて当事者の方は多数いると思います。ただ私自身感じることとして、社内で出会ったカミングアウトをしている人って、自分自身がゲイだからどうしてもゲイとの遭遇率が高いっていうのはあるかもしれないんですけど、女性でレズビアンですとカミングアウトをしている方、公にしている人って今のところ、僕は社内で出会ったことがないんですね。性別が起因して言える、言えないに性差があるのかな、と僕は感じたんですけど、どう思いますか?
そうですね、私自身女性として働いてきて、やっぱり男性に比べると社会での扱いがまだまだ低い位置にあるっていう実感があるんですね。レズビアンの方は、会社でカミングアウトして、万一そこの会社に居られなくなったときに、本当にスムーズに次の職が見つかるか、今のお給料と同じお給料が貰える補償がないっていうところがあって、男性と比べるとしっかりした貯金もなかったりとか、不安定な期間があると、すごい生活に困ると思うので、言っても大丈夫って思える気持ちが男性よりも少ないのかなって思います。
男性の場合は、もしここに居られなくなっても次行ったら大丈夫と思えるのが多いのかなと思うんですが、その辺はどうですか?健茶さんがもしここの会社に居られなくなったら、すぐ次があるやんって思えはります?
今以上かどうかは別にして、一切仕事がない、にはならないかなとは思いますね。
もちろん女性でもね、ぜんぜんすぐ見つかるよって人も居てはると思うんですけど、男性に比べると少ないんかな~って思いますね。
なるほど。参加しているメンバーの皆さん、ここまでのお話しを聞いて何か聞いてみたいこと、感想でもかまわないんですがいかがでしょうか?たとえば、お子さんのいらっしゃる方は、今日のお話を聞いて自分のお子さんが実はマイノリティ当事者だったらなど、いろんな角度から想像できたと思うんですが、いかがでしょうか?
私は娘が2人いるんですが、もし自分の娘がマイノリティだったとしても、たぶん子どもたちがやりたいように、生きたいように応援してあげたいと思うので、もうぜんぜんそれは大賛成というか。でも私より、子どもたちの方がどんどん新しい社会に順応していてすごく寛容なんですよ。話を聞く限り。大人よりも子どもたちの方がとっても進んでるなっていうのは感じますね。
そうですね。僕が小学生の時って、オカマとかレズとかは、ちょっと女っぽい男の子や、女の子同士で仲良くしていると、わりと普通に言われた言葉の1つだと思うんですが、最近の小学生はそういうのがだいぶ緩和されてるんだろうね。
以前社内のコミュニティに参加していたお母さんは、活動をきっかけに、女の子がリビングでテーブルに足をのせていたときに「女の子なんだからそんなことしちゃダメっ」ていう叱り方をしている自分に気づいたっていうのがあって。
たぶん誰でも一度は、「男だから」「女だから」「女なのに」とかって言われているんじゃないのかなって。
世間一般的な『男女』に当てはまらない自分は、ダメな人間なのかなと思い込まされてしまったりして、そんなのが昔はもっともっと強かったけど、最近はある程度緩和されている気はしますよね。でもやっぱり、さっき言われた、女性が転職しづらかったりとか、発言がしづらいというのは、まだまだ根深い感じはしますね。
ニュースとかSNS、あと政治のなかでもLGBTQという言葉がすごくたくさん出てきて、認知がすごく上がっていると思うんですが、実際にここ数年生活するうえで、こんなことが良くなったとか、周りの声とかって変わってますかね?
私たちがカミングアウトした2015年くらいから、だんだんLGBTQの認知が上がっていって、差別的なことはダメだというのが広がってきたと思うんですね。その時に私は開業して、職場以外の人から声をかけられることがあんまりなくなってしまったんですけど、動物病院にきてくださっている飼い主さんから、結婚したんですね!おめでとうございます!と言われまして、びっくりしました。10年ぐらい前とかだったらもう絶対そんなこと考えられなかった。
一般の方々、普段からLGBTQに特に関心を持って生活していない人からも、そんな言葉を聞けて、理解してもらえてきてるんだなと思いました。
ありがとうございます。LGBTQという言葉がひとり歩きしちゃってるんじゃないかなっていう思いもあったんですけど、やっぱり、知るっていうのが一番大事ですよね。知ってるだけで、考えられることがたくさんあると思うし、この数年で知っている人が増えたのがすごく大きな一歩なのかなと思います。
いろいろと活動されてるなかで、ほかの会社や団体でこんな活動しているところもあるよ、といった事例や活動するうえでのアドバイスをいただけたら嬉しいなと思います。
今は大きな会社さんでも「ダイバーシティ&インクルージョン」や、LGBTQに関する研修も実施するところがすごく増えてきたんですけど、やっぱり上の人がトップダウンで「この研修受けろよ~」って言って、皆さん忙しいなか、しぶしぶ受けさせられるってことがけっこうあって、オンラインとかやったらとりあえず流しとくけど、実際はぜんぜん聞いていない、見ていないということもけっこうあるみたいですよね。
お仕着せみたいな研修やったら、意味がないなと思うんですよね。我が事として捉えるのは難しいかもしれないですけど、関心を持って話を聞いていただける方法がないかなと考えてるんです。自分には関係ないと思ったら、興味もまったく湧かないと思うんですよね。身近にカミングアウトしている人がいたらいいんですけど、それも簡単ではない。カミングアウトしやすい環境にするために研修するんですけど、結局堂々巡りになってできない、っていうことになるので、難しいな~と思ってるところです。
それと、もう一つ、研修の問題で、カミングアウトしていない当事者の方が、会社のLGBTQ研修に参加したんですって。研修後に、参加者が「あいつが怪しいんちゃうか?」みたいな話になってすごくしんどかったっと聞いたことがあるんですね。そういう風にならないように、十分配慮して研修をしないといけないと思うんですけど、それも難しいですよね。
LGBTQに関して、正しい知識を持っていないと、知らないことは怖いし、できたら関わりたくないって思うのは、人間の心理として当然やと思うので、まずは正しい知識を知ってもらうことが重要なのかなと思います。
我が事として捉えてもらうには、積極的にALLY(味方、仲間)になってくださる方が、個人的に自分の横のつながりのなかで広げてもらうのが、今のところ考える最善のことかなと思うんです。
それはそうですね。去年の夏、まさにこの場所で第1回目のヒューマン・ライブラリーをやったんですけど、視聴してくださった方からはすごい熱いコメントがいっぱい来てたんですけど、参加できなかった方からもアンケートをお願いしたところ、「現状周りに当事者がいないので必要はありません」とか、「押し付けがましい」とかコメントがあって。
確かに、読み物として知識だけ身につけろって言われると、興味のない話を熱心に読まない。でも今日のお話のように、一人の人の経験とか、その想いをお聞きすると、やっぱりすごく共感できるポイントがある。だからまずこのヒューマン・ライブラリーを見てもらうことが、すごく大きな一歩かなと思います。
最後にメッセージや期待したいことをお伝えいただけますでしょうか。
これを読んでくださった方々は少なからずLGBTQに関心がある方なのかなと思うんですけど、本当は、そうじゃない方々にも、読んでいただけたら嬉しいなと思います。そして、私たちの話を聞いて、レズビアン、同性愛者、LGBTQって「なんや思ったより、普通な感じなんちゃうん?」「そこらへんに居そうやな~」って身近に感じてもらえたら嬉しいなと思います。できたら、この話について感じたことがあれば、「この前、レズビアンカップルの話聞いたんやけど」みたいな感想を周りの人たちと共有してもらえたら嬉しいなと思います。
いかがでしたか?後編は制度の限界、質疑応答をお送りしました。
今日の感想をぜひご友人、ご家族の方とも共有していただき、「マイノリティ当事者の実態を知ってる人」が増えることが、マイノリティ当事者の方の「生きやすさ」に繋がっていくと信じています。
私も社内で、自分の周りにもいるかもしれないという気持ちで興味を持って取り組んでもらえるように、いろんな人に情報発信していければと思っています。
前編・中編も、ぜひご覧ください。
NPO法人 カラフルブランケッツ公式webサイト
http://www.colorfulblankets.com/
大阪レインボーフェスタ公式webサイト
https://www.rainbowfesta.org/
ベルシステム24、「性の多様性」を祝福し、分かち合う場をつくるイベント「レインボーフェスタ!2021」に参加
https://www.bell24.co.jp/ja/news/bell24/20211101/index.html
そんなお二人はその後2018年に大阪市が行っているパートナーシップ宣誓証明という、市が行っている制度ですね、こちらを利用された第1号ということになったんですが、この制度を利用しようと思ったきっかけは、なにかありましたか?